2020-01-01から1年間の記事一覧

塔(2020年12月号)

同じ夏 狂った蝶がアスファルトに見ていた花のまぼろし思う 感情の振り子はいつもやや遅い何もない真夏の海で泣く きっと添い遂げるあなたと迎えよう春に生まれた白い小鳥を 神苑を青鷺のゆくほそい指水面を撫でるように割りつつ 胡椒の瓶(さっきあなたが閉…

塔(2020年11月号)

水槽に転がっていた歯だというわずかに欠けた鮫の歯を買う ペルセウス座流星群のほそ長い光の下の黒い飛行機 冬の陽は花瓶を透かし寝室に青い炎の立ちのぼる午後 薔薇園で電話を握り立ちすくむ人の瞳に薔薇の乱れる 水鳥の逃げた直後の静けさに訃報はいつも…

塔(2020年10月)

いにしえの回転遊具脱皮するように鋼の肌のなまめく はなびらを花から奪う春風のような筆致であったㅤㅤわかった 樹の影に小鳥の姿見失うふいに途切れるあなたの語り 照準を2秒で合わせ降下する鳥の眼(まなこ)の火をくれますか 薪(たきぎ)から炎はあふれ…

NHK短歌(2020年7月号)

春の花かごいっぱいに積み込んで自転車を駆る死にゆく花と 鳥が二羽昼寝していた自転車をゴミトラックが持ち去ってゆく

塔(2020年9月)

紫陽花の群生を割る階段を脳の群れにまぎれて歩む 骨につめたく涙の染みる心地して観音像を闇に見上げる 丸型の絵馬と祈りの痕跡が古木の樹皮のように重なる ぬるい風 何を奪った 夕立の崩れた水が鳥居に光る どうしても届かなかった 水鳥の羽少しずつ重くす…

塔(2020年8月)

花冷えの夜の溺死に靴音を降らせて街の銭湯へゆく 人の匂い薄く染みつく池の底夜ごと硬貨を投げ入れられて 切りたての髪に水気をまとう子のあゆみの後に衣擦れを聞く 銀色の尾が水面を閉じてまだ少しなまぐさい湯を掻いている 浴槽の栓引き抜いて渦を巻く水…

塔(2020年7月)

この灰の前世は花と告げられて焼却炉まで夢を歩いた 蜜漬けの果実の浸るより深く祖母のまなこに五月の桜 ファミレスの氷を噛んで濡れた歯の温度を殺すようなキスした ずぶ濡れの小鳥の喉に絡みつく夏の夜風のような執着 散るという死に様をもつ生き物であれ…