2021-01-01から1年間の記事一覧

塔(2021年4月号)

無垢な祝福のように雪バス停の無人の椅子をつめたく濡らす冷え切った月が昇って人権のあやうい国の夜に浸れり終わらぬ冬に絶えた火種を灰にするごとく五輪の聖火が燃える自助の自が失われゆくじっと手を見つめて過ごす我の正月ふと思い出されたように壊れた…

塔(2021年3月号)

いつかいつか楽になりたい湿気らせた花火の捨て方がわからない雪の夜何かを急ぎ飛ぶ鳥の雪に紛れて落ちてゆく羽開いたら光があふれてくるような扉ではない戸を開ける日々この冬の最低気温また遠くないうちに忘れる朝のことそこに在る真冬の風に目を開ける鳥…

塔(2021年2月号)

死者のは死者の顔をしている透き通る湯灌の後の髪を梳きつつ冬を堪える蕾のように閉じているうすい瞼は何を守りし一人分の不在を乗せて収骨台のみが変わらぬままの火葬炉死者よりも死者の歴史を蓄えて胸骨と螺子しゃらしゃらと鳴る同じ人数と火葬場をあとに…

塔(2021年1月号)

話したい、あなたの頬に触れるたび透き通りゆく指先のこと許すとき胃が石化しているような顔をせぬよう淡く前見る冷えきった鶏の煮込みを分けながら今年はないんだって曼珠沙華初秋の夕陽を薄く照り返す湖面にくずれてゆく顔を見るまるで水中に撒かれた火の…