塔(2020年9月)
紫陽花の群生を割る階段を脳の群れにまぎれて歩む
骨につめたく涙の染みる心地して観音像を闇に見上げる
丸型の絵馬と祈りの痕跡が古木の樹皮のように重なる
ぬるい風 何を奪った 夕立の崩れた水が鳥居に光る
どうしても届かなかった 水鳥の羽少しずつ重くする水
イルカ去り後のイルカの呼気の泡豪雨のような生きたさを抱く
春の夜イルカとイルカの死後を知る飼育員らのショーを見ている
水槽にレプリカの海満ちていて悲しみこぼれる脳を沈める
まだしばらく長くは続かない日々が重なるだろう切り花を買う