塔(2020年12月号)

同じ夏 狂った蝶がアスファルトに見ていた花のまぼろし思う


感情の振り子はいつもやや遅い何もない真夏の海で泣く


きっと添い遂げるあなたと迎えよう春に生まれた白い小鳥を


神苑を青鷺のゆくほそい指水面を撫でるように割りつつ


胡椒の瓶(さっきあなたが閉めた瓶)取り落としこぼれ出る黒い粒


暮れてゆく古都であなたと白鷺のおおきな翼の背景になる


傘立てに重なっている傘の骨 引き止めたくて掴む手の骨