塔(2020年8月)

花冷えの夜の溺死に靴音を降らせて街の銭湯へゆく


人の匂い薄く染みつく池の底夜ごと硬貨を投げ入れられて


切りたての髪に水気をまとう子のあゆみの後に衣擦れを聞く


銀色の尾が水面を閉じてまだ少しなまぐさい湯を掻いている


浴槽の栓引き抜いて渦を巻く水に光を埋め込む鱗


すれ違いざまに沸き立つ 銘刀の光に触れたような鳥肌


燦然とそびえ立つ瓶牛乳をなにも乱さぬように抜きとる