塔(2021年1月号)

話したい、あなたの頬に触れるたび透き通りゆく指先のこと

許すとき胃が石化しているような顔をせぬよう淡く前見る

冷えきった鶏の煮込みを分けながら今年はないんだって曼珠沙華

初秋の夕陽を薄く照り返す湖面にくずれてゆく顔を見る

まるで水中に撒かれた火のようでember tetraのような名が欲し

酸欠の視界に小蠅死ぬのなら小蠅もろとも滅びるもよし

まだ狂ってはいなかった湯舟から昨夜の髪と冷えた湯を捨てる

冬の風外し忘れた風鈴を律儀に鳴らしそしてどこかへ